A食堂の入口で私たちをふりかえった。
『このなかに一つの驚きがあなた方を待っていますよ。日本の紳士が一人泊っておいでなのです。』
 戸があくと、いぎりす人ばかりの、広くもない食堂の隅に、いかさま日本人たることを光栄としているらしいひとつの黄いろい顔が、若いくせにおちつき払って、今やその口へ大きな肉片《にくきれ》を押し込み終ったところだった。
『やっ! こりゃどうも――。』
 とナプキンを使いながら立ち上るのを見る、とそれが小野さんだった。
『とうとう脱出なさいましたね。いや、結構々々。え? 私ですか? 二、三日まえにここへ来ました。』
『待遇はどうです?』
『駄目です、こんな家。なっちゃいません。近いうちにまたどこかへ移るつもりです。何しろ、ここの婆さんと来たら慾張りで気が利かなくて――。』
 そうして、そばに虔《つつ》ましやかにほほえんでいるチャンバアス夫人をかえりみて、小野さんはひどく紳士的口調の英語に取りかえた。
『ヴァレイ氏夫妻よ! あなた方はいま、英吉利《イギリス》におけるあなた方じしんのお宅へ帰ってきていることをはっきりと意識していいのです。それほど高くあなた方がここを評価
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