Z時間の会話に、小野さんはこんなことを話して行った。
『私が日本を出て来るとき、重役のひとりがこういう言葉をはなむけしてくれました。日本人たることを光栄とすべし――というんです。簡単ですが、海外ではこれ以上のモットウはありませんね。私はそのときただぼんやり聞いていましたが、今から思うと、その重役はなかなかどうして豪《えら》いですよ。日本人に生れたことを心から光栄とし感謝する。私はすべてこの意気でやっています。』
 そういう時の小野さんにはいかにも若い日本人らしい「色の黒い逞《たくま》しさ」が見られた。私たちは何となく頼母《たのも》しい気がして、この「毛唐ずれ」のした小野さんと、彼の、機智に富んだベントレイ夫人への断り文句などを毎日のように話しあっていた。
 そうして間もなく、根気よく散歩に出てさがしているうちに、とうとう私たちもこれならという家を見つけて、さっそく引っこして行った。パレス街の近辺で、ベントレイお婆さんのところからみると一段高級なプライヴェイト・ホテルだった。
 移った日、私たちが夕食に階下《した》の食堂におりていくと、はじめてなので案内してくれた主婦のチャンバアス夫人が
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