ハは上品にかまえてにこにこ[#「にこにこ」に傍点]していなければならないのが、私にとってはなお面白い。
 さんざん日本語でベントレイお婆さんとお婆さんのいわゆる「わたしの家」とをこき[#「こき」に傍点]下ろしたのち、いずれどこかこの近くに移るつもりだから、また会うこともあるだろうと言って小野さんはさっさ[#「さっさ」に傍点]と帰っていった。帰りがけに小野さんがベントレイ夫人に言っていた。
『この方――つまりかくいうヴァレイ氏――はお前が「今まで聞いていたとおり」言葉をつくしてお前のところをすすめてくれるけれど、残念でたまらないのは、お前の家に電話のない一事だ。私は、仕事のうえから電話のない家に住むわけにはいかない、私のビジネスがそれを必要とするから。この点、よく諒解あらんことを望む。では、さよなら。』
 ベントレイお婆さんは一言もなかった。
『おおいえす・ぐっどばい!』
 なんかと小野さんのうしろ姿にひどく口惜《くや》しそうだった。
 私たちのあいだに当分小野さんの噂がつづいた。小野さんは、若いながらも神戸の一輸出会社の倫敦《ロンドン》支店の支配人だった。そう名刺にも書いてあるし、あの
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