。』
『いいや、要らない。』
『いや、たしかに要るよ!』
 要る、いらないで際限がない。見兼《みかね》たとみえて、けさチェッコから来た人が仲裁に這入って何かくどくど[#「くどくど」に傍点]言っている。やがてその説明に満足したらしく、両方とも間がわるそうに黙りこんで、妙ににやにや[#「にやにや」に傍点]しながらふたたび箸をとり出した。
 このとき私たちは、彼女の発議で取ってみた缶詰の羊羹《ようかん》に「日本和歌山市名産」という紙が貼ってあるその愉快さにおどろいている。和歌山名物缶詰の羊羹には、多分に「明治」の味が缶詰してあった。
 部屋いっぱいにはち切れそうに濃厚な「日本」の発音と臭気。そしてそとは、チャアリング・クロスの史的に気軽な人浪《ひとなみ》とABCの詩だ。
 饒舌《しゃべ》るのと食べるのと、ここばかりはともに日本の「口」の緑園《オワシス》である。
 日本旅人のらんで※[#濁点付き平仮名う」、1−4−84]う[#「らんで※[#濁点付き平仮名、1−4−84]う」に傍点]。
 玄妙きわまりなき東洋日本の縮図―― It is SAKURA; yes sir, just off Cha
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