んで来ているのだ。パアク・レイン・ホテルは新しい建物で、さして大きくはないがまず一流。朝の十時、まだあの有名な耳が枕に押しついている頃おい――枕をはなれたが最後、耳も耳の主人もともに外出して、終日|印度大名《マハラジャ》の一行のごとくうろつく危険があるから――を狙って、こうして私は彼女を引具し、職務に興味をもつ――というのはつまり入社後間もない――フリイト街の犬――新聞記者――みたいに奇襲して来た次第である。BANZAI!
と言うと、いかにも私が、デエリイ何とかの訪問記者にでもなって、この「日本|むすめ《フラッパア》の寵神《アイドル》」――じっさいデエリイ何とか紙は羽左衛門の写真を掲げてこういう説明をつけていた。再びBANZAI!――から何段かを埋めるに足る Story を引き出すべく、常鋭鉛筆《エヴァ・シャアプ》を片手に「好意的批評眼」をぽけっとに忍ばせ、いまし編輯長の激励裡に「紙屑の谷」を駈け出して来たように聞えるが、じつはただ、たまたまこの六月の朝、単なる旅行者としての私と彼女が、Doing the London の重要な一つであるかの名だたるメイフェア彷徨を実行しながら、英文
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