潤@にして二つの意味であろう。
『ナンバ・フォア、味噌汁スリイ願います。』
四番さんおみおつけ三つというところ。
『ワン新香《しんこう》、おうらい!』
『海苔まきフォア・六人《シックス》!』
『ナンバ・セヴンのお椀まだですか。』
『十一番さん、御飯《ライス》おかわり!』
皿の音、沢庵《たくあん》の香《におい》、お醤油のこげるにおい、おつゆを啜《すす》る盛大なひびき、「いらっしゃいまし」「お待ち遠さま」「有難う存じます」の声々――それに混じって食堂じゅうに色んな日本語が縦横に走り交《かわ》している。
『おい君、巴里《パリー》で行ったかい? え? ほら、あそこさ。例のところさ。はは。』
と大声を発しているのは、若い会社員の一団――恐らくは一つ橋出らしい郵船の人たち――の食卓である。
『いや、そのことさ。じつはこうなんだ――。』
ひとりが答えかけて低声《こごえ》になると、みんなの首がまえへ出て話し手のほうへ集まる。
隣りに静粛にお刺身をつついている二人の老人組は、その端正さ、その謹厳な態度から押して、ともに大学教授何なに博士に相違ない。口をもごもご[#「もごもご」に傍点]させて何か
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