セっているようだが、ときどきウインというのが聞えるところから見ると、近くウインから来倫《らいロン》したものらしい。泰然と落着いて二本の箸をあやつっている容子《ようす》に、どことなく中華大人の風格があって、なかなか頼母《たのも》しい眺めである。
こっちの卓子《テーブル》には、頭をきれいに分けて派出《はで》な両前の服を着た日本青年――N男爵嗣子オックスフォウドの学生――が、とうに食べおわったお膳をまえに、一月前の東京の新聞に読みふけっている。そばの家族づれは領事館の人らしい。七、八つの男の子が上手に日本言葉と英語を使いわけている。
『わっはっは!』
という猛烈な笑い声が若い会社員のてえぶるに爆発して、一時満堂の注意をあつめる。かれらは「若い会社員」らしい、いわゆる「わいだん」を一しきり済ましたのち、こんどはゴルフの話題だ。
『そりゃあ畑中君にゃあ敵《かな》わないさ。何といったっていいドライヴだからなあ――。』
『しかし、はじめのうちから早く廻ろうとするのはうそ[#「うそ」に傍点]だね。』
『畑中なんか君、玄人《プロ》に言わせるとゴルフじゃないっていうぜ。』
畑中君はその場に居あわせな
前へ
次へ
全63ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング