l公がこのまち筋を歩かせられ、またこれからも、どれだけその人道を蹈《ふ》むことだろうか――OH! そして小説のなかの彼らめいめいの用意と目的と感情、それらのすべてを、過去のものも来るべき作家のペンに宿る性格も、書物を読むようにすっかり心得ているのがチャアリング・クロスだ。なぜなら、人はそっくりろまんす[#「ろまんす」に傍点]中の人物となって魅縛《みばく》的なここの敷石に立つ――と言われているほど、それほど、じっさいチャアリング・クロスを昼夜上下に押しかえす通行人は、ロンドンの他のどの町をとおる人ともちがって、いぎりす人らしくない一種ぼへみあんな理解に溶けあっているように思われる。
 チャアリング・クロスは古本の港。
 トテナム・コウトは家具の山。
 この、古本と古本屋のおやじと、おやじの自慢する天候観測能力とごみ[#「ごみ」に傍点]だらけの小さな飾り窓とのチャアリング・クロスをトテナム・コウトの地下鉄《チュウブ》停車場から新オックスフォウド街を越して二、三歩左へ切れたところに、すこしでも注意ぶかい人なら、そこに、一風変った人種の出入によって、しっきりなしに不気味に揺れている一つの戸口《
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