塔O・クロスは、ウェストミンスタアへ這入る手前の、最後の葬列休憩所だった。あの、倫敦の歴史とは切ってもきれないドクタア・ジョンスンは、その時の淋しいチャアリング・クロス村が後日人間の潮《タイド》が浪をなして寄せては返す浜べになるであろうといっている。その予言のとおりに、いまのチャアリング・クロス街は大ろんどんの中心となって、市の劇的生活の主役のひとつを演じているのだが、ABCの詩にあらわれている田舎町《スモウル・タウン》めいた人混みと、音律と、あの色彩、それはその舞台面にふさわしい、狭く暗い、曲りくねったチャアリング・クロスにだけ、いまもそのままに、生きて動いているのだ。
 時間と煤煙と霧に黒ずんで、昔のとおりの軽い心臓の群集を両側の歩道に持っている英吉利《イギリス》での羅典区《カルテ・ラタン》――私は、皮肉で、粋で智的なフリイト街の雰囲気とともに、この細い一本道の提供する古めかしい|楽天さ《ケア・フリイ》を愛する。チャアリング・クロス――あまりに多くの不可思議《ミステリイ》を見てきた町。
 新々あらびや夜話が鉱脈のように地底を走っている往来である。
 何とたくさんの物語の主人公と女主
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