ネ着実さがいささか私の敬意を強いて、倫敦《ロンドン》というと、私は反射的に、小さな鞄を胸へ下げて公園じゅう半|哩《マイル》一哩を遠しとせず、自信と事務に満ちて重々しく芝生を踏んでくる制服の「老いぎりす紳士」を脳裡にえがくのだ。もしこれが亜米利加《アメリカ》なら、広いところを一々二|片《ペンス》あつめて廻るかわりに、さしずめ白銅《ニクル》一個入れなければ腰かけられないように全部の椅子を改造することだろうし、そしてまたその椅子が、白銅《ニクル》一個入れるごとにちりん[#「ちりん」に傍点]とかがちゃん[#「がちゃん」に傍点]とか、なんと恐ろしく証拠的な大音響を四隣へむかって発散することであろう。これにくらべれば、英吉利《イギリス》のは遥かに、そこにおのずから古典的な一つの趣きがあるような気がする。
――などと考えたのはあとのことで、そのときは二片出してもっとよく音楽の聞えるところまで這入りこむのだと思ったから、私は、いや、ここでたくさんだ、ノウ・サンキュウと挨拶したわけだったが、そのお爺《じい》さんの説明でこころよく四片を投じ、ところどころで切符うりが来るたびにそれを呈示しながら、休みやす
前へ
次へ
全63ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング