tをとった気になった。のは、私だけが勝手にそんな錯覚におち入ったにすぎなく、一日本紳士市村録太郎氏としての羽左衛門は、アブドュラの二十八番、薔薇《ばら》の花びらで吸口を巻いたシガレットをくゆらしながら、いかにも外遊中の日本紳士らしくぽうっ[#「ぽうっ」に傍点]としてそこに腰かけている。
以下、面談《インタヴュウ》――といいたいところだが、羽左衛門によれば、ただ――。
倫敦は、地味でおちついていて。
巴里《パリー》は、騒々しいが暢気《のんき》で面白く。
亜米利加《アメリカ》は、便利でおそろしくにぎやかだが、ロンドンが一番好き――おちついた気分だから――というだけのことで、
『何しろあめりかは大したものです。早いはなしが、食い物屋へ出かける。あちらでいうカフェテリヤ、つまりレストランでさね。あなた方もまあ一度は亜米利加へも行ってごらんなさい。這入るてえとこう、ずらりと機械みたいな物が並んでて、穴へ金を入れると自働でもってパンが出る、ね、肉が出る、はははは、コップにコウヒイが出て一ぱいになると止まりまさあ――って調子で、万事が簡便主義です。そのかわり人間も簡便だ。あははは、エロウスト
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