トの朝市場ほど噪《さわ》がしく、顛狂院の宴会できちがいの大群が露西亜《ロシア》バレイを踊ってるほどにも奔流的な光景《キイド》を呈するのが、馬の謝肉祭――いぎりすの、NO! この世界のダアビイだ。
 DERBY! なんとその名の伝統的で、かつ派手《ゲイ》な精神に満ちみちていることよ!
 六月六日。馬が人よりも神さまよりも巾をきかすべく貴族《ロウド》たちの名において約束された日である。
 道理で、この日、太陽は馬のために――特に――かがやき、青空は馬のために一そうあおく拡がり、草木は馬のために一夜にみどりを増し、風は馬のために出来るだけ軽くそよぎ、人は馬のために眼の色をかえ、女は馬のために三週間まえから着物と帽子と靴をあつらえ、自動車は馬のために咆《ほ》え、犬は馬のために尾を振り、国旗は馬のためにひらめき、奏楽は馬のために行われ、そうして馬じしんは――馬は馬らしい功名心のためにこれらのすべてへ向って高くいななく。歴史と両陛下によって十九世紀的に祝福されているのが英吉利《イギリス》の大競馬、ことにこのダアビイ――というから、そこで私たちも、これではならぬと馬のために出来るだけすぽうつ[#「す
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