思うと、交通機関の咆哮がしいん[#「しいん」に傍点]と遠ざかって、水蝋樹《いばた》の反映のなかを―― anyway、また雨だ。
 一晩降り抜くだろう。

   That Derby Day

 視野のかぎり茫漠たるゆるい芝生の起伏に、ありとあらゆる類型の乗物と音律と人種と高調と、そして体臭と悍馬《かんば》と喚声と溌剌《はつらつ》とが原色の大洋のように密集して、そいつが世にも大々的《スマッシング》な上機嫌《ハイ・スピリト》のもとに一つに団結して跳躍する、動揺する、哄笑する、乱舞する――何のことはない、くりすます前の市ぜんたいの玩具屋の全商品を、一|哩《マイル》平方の玉突台のうえへぶち[#「ぶち」に傍点]まけて、電気仕掛で上下左右にゆすぶりながら、そこへ、あめりか中の女学生を雇ってきて|足踏踊り《ステップ・ダンス》をおどらせ、巴里《パリー》のキャバレ女に香水を振り撒かせ、猶太《ユダヤ》人に銀貨をかぞえさせ、支那の船員に口論させ、そばで西班牙《スペイン》人と伊太利《イタリー》人に心ゆくまで決闘をゆるすような、ひと口にいえば、なんともすさまじい享楽と騒擾《そうじょう》の一大総合場面――バグダッ
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