踊る地平線
テムズに聴く
谷譲次

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)窓|硝子《ガラス》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)窓|硝子《ガラス》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》りたいほど
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   窓

 私たちの部屋には、四角な枠に仕切られた二枚の淡色街上風景が、まるで美術館の絵のようにならんで壁にひらいている。くる日も来る日も鉛いろの雨に降りこめられている私達に、かろうじて外部の世界との交渉が許されるのは、いま言ったふたつの窓|硝子《ガラス》をとおして町に移る陰影のうごきを眺める場合だけだ。窓は家の眼だという。が、この窓はただちに私たちの眼でもあった。私と彼女は、ひとりずつその穴ぐらみたいな薄暗い部屋の窓のまえに立ちつくして、解くまで獄《ごくや》を出られない与えられた問題かなんぞのように、朝から晩まで狭い往来を見つめていることが多かった。
 窓から覗く空は、円をえがくかわりに平面な一枚の雲
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