ぽうつ」に傍点]に装って双眼鏡をはす[#「はす」に傍点]にかけ、下宿のお婆さんナオミ・グラハム夫人を同伴し、いつも夫人の台所にうろうろしている身許不明の無職青年ブリグスを運転手に仕立て、ブリグス青年がいずくからともなく拉《らっ》し来った一九二五年型何とかいう自動車に打ち乗って、さてこのとおり、国道を流れる車輪の急湍《きゅうたん》に加わってこうしていまエプソム町近郊の競馬場へ馳せ参じたわけだが、BEHOLD!
遠く望めば、混然湧然|轟然《ごうぜん》たる色調の撒布に、蚊ばしらみたいなひとつの大きな陽炎《かげろう》が揺れ立って、地には人馬と天幕、そらには風船と飛行機――|日々かがみ《デエリイ・ミラア》・タイムス・毎日電報《テレグラフ》・急報《エキスプレス》なんかという新聞社の所属をつばさに大書した――が日光をさえぎり、近づくにつれて自動車は野にあふれ、野は弁当《ランチ》の紙におおわれ、紙屑は人の靴に踏みにじられ、人は周囲に酔ってやたらに大声を発し、巡査と役員と貴婦人の洪水をくぐって十八、九の若い衆が何人も何人も泳ぎまわっている。番組《カアド》売りだ。
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