さえつけて、この多角的な怪物の把握で窒息させようとしているくらいだ。
WHY! ああ・いえす、しつこい歯痛とともに鬱々として焦立《いらだ》たしいものの代表に使われるほど、世界的に有名な London weather ――それが私に作用しつつあるのだ。
私たちだって、旅行者のもつ俗な善意《グッド・ウイル》と口笛の気軽さで、野花とみどりの斜面と羊のむれのケント州の心臓を走って、「ある日大きな倫敦《ロンドン》へ愛蘭《アイルランド》人がやってきた」ように、黒いヴィクトリア停車場へ着いたものだった。それを老嬢ロンドンは、老嬢に特有の白眼と冬の陽ざしと煤《すす》けた建物の並立とでごく儀式的に迎えてくれた。なんという殷賑《いんしん》な、そして莫大な田舎町《ヒック・バアグ》であろう! これが私の組織を電閃《フラッシ》し去った正直な第一印象だった。見わたすところ、家も人も路も権威ある濃灰色《オクスフォウド》の一いろの歴史的凝結にすぎない。そして above all ――雨。私の部屋の窓硝子に、week in, week out ほそい水の糸をひく五月の雨。GAWD!
君!
ぼんやりと椅子に崩れて
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