ヘさらさら人のうらみを買うようなことをした覚えはないし、またわざわざこんな奇計を弄してまで、私たちに戦いを挑む人も理由も、見わたすところ?りそうに思えない。すると、当然これは誰かのいたずらなのだろうか?――と、私が、すぐ前の彼女の眼を見詰めて思案していると、彼女も固く口を結んで私の眼をみつめ返していたが、このとき彼女が、低い声を出して私を驚かした。部屋の空気は、いつの間にかそれほど窒息的に重大になっていたのだ。
『泥棒が入ったんじゃないでしょうか。』
 これも一つの意見である。
『泥棒――そうかも知れない。』
 と言いながら、私はてっきりそれに違いないと思った。盗賊が、じぶんのはいった家に、迷信、もしくは単なるいたずら気から、色んなしるし[#「しるし」に傍点]を残しておくことは、日本にも西洋にもよくある。と気がつくと同時に、私は素早く室内をしらべてみた。がふたりの荷物はもとより、この部屋についているものも何一つ失《な》くなっていない。どろぼうの仮定もこれで見事に逆証されてしまった。
 で、やはり最後に悪戯《いたずら》だろうということになったのだが、この理論を確立させるべく、そこにもっと
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