オてそこに一つの驚きを経験したのだった。これは、その土地の生活に親しみを知る最初であり、旅行者としての私達が自分じしんに課する「速力あるフレキシビリティ」から言っても、まず安心し自負していいと私は思ったりした。こうしていつともなしにいくぶん彼等に同化しつつある私達のうえに、窓から見るテムズの一部は朝晩の色をかえて、無風帯の日がつづいて行った。
水を吹く靴
『あらっ!』
一番さきに見つけたのは彼女だった。
『どうしたんでしょう? 靴に水がはいっていますよ。』
というのだ。何を妙なことを――と思いながら、彼女の真剣な顔におどろいた私は、いそいで駈けよってみた。なるほど、けさ家《うち》を出るとき寝台の横に脱ぎすてて行った私の代りの靴が、片っぽだけ浪々《なみなみ》と水をたたえている。
『――!』
『――!』
私たちは黙って顔を見合った。あちこち移ってあるいた一つの、その聖マアテン街の素人下宿である。朝から外出していま帰ってきた私達を、部屋へ這入るなり、このへんてこ[#「へんてこ」に傍点]な現象が待ちかまえているのだ。
じっさい、ちょっと説明のつかない異常事である。
私はよく
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