サしたもの。トリイ夫人が出ている。
 七月三日――女王座《クイインス》。「メリイ・ドュウガンの裁判」。これは市伽古《シカゴ》の上級法廷を背景とする亜米利加《アメリカ》のメロだが、妙に変っていて大受けだ。現に世界中三十七個国でやっている。観客一同を陪審官に見立てて舞台で公判が進行する。なかなか考えたものだ。如実な、そしてかなりに cleverly done なスリラアである。

   聖マアテン街の家

 まずしい小人形《マリオネット》の踊りをその踊りの輪のなかから見るつもりで、さんざん探した末この貧民区へうつって来た私たちは、第一に幻滅を味《あじわ》わなければならなかった。というのは、これは私がすこしく物語的に失したせいかも知れないが、そこの貧民窟には、そういう人々に特有な、無智から来る超国境の好意と狡猾な歓迎があるだけで、私がこころひそかに望んだような、「逃げるようにして動く人影」も、「格子縞の鳥打帽を眼《ま》ぶかにかぶって口を曲げてものをいう傷痕《きずあと》の男」も、「誘拐されてくる社長の令嬢」も、OH! 何というあり得ないことであろう! ピストルの音さえもかつて一度として聞えたこ
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