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以下、連日散見のままに。
「準備すべて成り、指揮を待つ――ZZ。」
「BON・VOYAGE! 加奈陀《カナダ》の太陽はあなたのうえに輝くでしょう。感謝と祈り――谷間の白百合。」
「接吻。フレッドへ――エミイより。」
「夏季休暇中の友だちとして、同年輩の少年を求む。但《ただ》し喧嘩好きで、そしてあんまり肥っていないこと。当方十一歳――JACKベンスン。」
読み終った私は、新聞をおいて眼をつぶる。そうすると、私の耳に倫敦《ロンドン》のうなりがひびき、眼のうらに白屋敷《ホワイト・ホウル》の、メイフェアの、聖ジェムスの、南ケンシントンの、ハムステッドの、ブリクストンの、そしてライムハウスの――一くちに言えば大ろんどんの生活種々相が走り過ぎる。ジョンソン博士が予言したように、チャアリング・クロスにはいま|人間の潮《ヒュウマン・タイド》がさかまき、ロンドンは生きた小説でいっぱいだ。その曲りくねった路と、その暗い夜と、そのスコットランド・ヤアドと――。
異国者は淋しい散歩を愛する。
うつむいて歩いていると、英吉利《イギリス》の土には、日本とちがった石と草がある。草や石でさえこうもことなっ
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