蜚ヤにも運転手にも「キュウ!」の撒《ま》きつづけだ。
『キュウ!』
皿を割るというので思い出したが、こっちで日本に関してこんなことをいう。
ある金持の家に、中世紀から伝わっている古い英吉利《イギリス》の皿が十二枚そろっていた。こんなに見事なものが一|打《ダース》そっくりあるのは非常に珍しいとあって、その家でも大いに大事にしていたところが、何かの粗相《そそう》で一枚こわしてしまった。そこで、残念でたまらないというので、いろいろ相談の結果、一枚同じのをつくらせて補うことになったんだが、そのふるい製法はいぎりすではもうあとかたもなく消えてしまい、どこへ訊きあわせても、それと同じ模様、おなじ色あい、同じにおい[#「におい」に傍点]を出し得る自信をもって引き受けようというところは一軒もない。一|打《ダース》の半ばを満たそうというんだから、言うまでもなくすべての点で完全に他とおなじでなければ、新たに大金を投じて一枚焼かせる意味をなさないから、躍起になってあちこち照会した末、とにかく日本という国は物を真似《イミテイト》することにかけては世界の天才だから、こういう仕事には日本が一ばん適任だろうとい
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