ン》に感心する人がよくあるが、たちまち自分のぽけっとへ影響して来るんだから、露骨に熱心にもなろうし、売らんがためには親切であることも必要なわけだ。が、このやり方は私はあまりいいとは思わない。それはなるほど店員の刺激にはなるだろうけれど、時として店の空気を不純にし、かつ多くの場合、客に自由に店内を見てまわる気をなくさせ、監視されているような感じを起させやすい。で、いや、なに、ただ漫然と見て歩いてるに過ぎないから放っといてくれ――こう店員に言ってやるんだが、すると彼らのすべてが、ぷいとそっぽ[#「そっぽ」に傍点]を向いて「キュウ!」と楽器的な音響を発する。これも例の「|有難う《サン・キュウ》」なんだが、この場合は「ふん、お生憎《あいにく》さまでしたね!」ぐらいにしかこっちにはひびかない。その他あらゆる機会にあらゆる意味の「多謝《キュウ》」をふりまく。そして、あらゆる意味の言葉なるものは、ただちに無意味な発音として以外に存在し得ないわけだから、いぎりす人の「有難う」は要するに習慣によって機械的に出る無意味な発音に過ぎないということになる。
「|Q《キュウ》!」の用例を二、三|左《さ》に示せば
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