ソ、ふたたびほそい通路の旅行に発足したんだが、みちみちくだんのモウニング・コウトがだんだん個人的な声を出す。
『ずいぶん長くかかりましょうな、お国からここまで。』
『イエエス。だから帰りにはどうしても衣裳掛けが要ると思って――。』
『いや、よく解《わか》ります。どうですか、コロンボのほうは? やっぱり景気がよくないですか、ここと同じに。』
『コロンボ?』
と訊きかえしながら私は気がついた。が、第一うるさいもうるさいし、せっかくこのモウニングがそう信じこんで得意になっているのだから、とっさに私は、そのままコロンボ市を「懐しい故郷」として、とにかくこの場は採用しておくことに決心した。
『あんまり面白くないです景気は。』
『ははあ、そうですかな――印度《インド》からですと、どういう路順《みちじゅん》でこちらへ――?』
『こっちから印度へ行く路のちょうど逆に当りますね。』
『ははあ――すると?』
『衣裳かけはこの売場にあるはずなんですか。』
『は。そうです。ここでございます。』
急に現職業にかえったかれは、そこの売台《カウンタア》と私の中間に正しくななめに停《た》ちどまりながら、つん[#「
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