A・ウォウカア》はいぎりす産に限ると言われてるほど、いかさま堂々とした「|能なし《ノウバディ》」がお仕着せのモウニングを一着におよび、微笑の本家みたいな顔をして直立している。
そこを私が襲った。
『旅行用の衣裳かけは一たいどこに隠してあるんです?』
かれは、ここぞとばかりふだんの三倍も落着きはらって反問した。
『旅行用の――何と仰言《おっしゃ》いましたかしら? 失礼ですがあとのほうが聞きとれませんでしたので、はなはだ御面倒ながら、もしおさしつかえございませんでしたら、もう一度おうかがい致したいと考えておりますところですが。』
英吉利《イギリス》人はこういうものの言い方をする。
『旅行用のコウト掛け――まさか旅行中じゃありますまいね。』
『いえ! コウト掛けならば確かにどこかにございますから――。』
『どこに? ――その潜伏場所をはっきり――。』
『旅行品部は捜索なさいましたろうな?』
『もちろん!』
『では――と、では、衣裳掛けですからことによると衣裳掛部にございましょう。御案内いたしましょう。こちらでございます。』
というので、私はこの微笑するモウニング・コウトと伴《つ》れ立
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