ナはしじゅう支那人あつかいされたものだが、どういうわけか、いぎりすへ来たら今度はよく印度人に間違われる。これも或る日の午後、私はろんどん一流の百貨店セリフリッジ、彼女の命令により旅行用の衣裳掛け――あの、折畳式になって皮のふくろに這入ってるやつ――を、hunt down すべく、ちょうど買物時刻の人ごみのなかを血相かえて右に左に奔走していた。すでにこんな努力が必要だったくらいだから、いかにその折畳式袋入衣裳掛なる物品が、ふくろにはいっているせいか旅行用品部のどこを見ても決して露出していなかったかがわかろう。そのうちにつるべ[#「つるべ」に傍点]落しの夏の陽はとっぷりと暮れかかるし、足は棒のようになるし――これじゃあまるで山道にさしかかっているようだが――いったい私は、何ごとによらず西洋人にものを教えてもらうことが大嫌いで、ロンドンなんかでもたとえどんなに途《みち》に迷っても never 人に訊くということはしないんだが、この時だけは仕方がないから、恥を忍んでちら[#「ちら」に傍点]と見えた売子監督《フロア・ウォウカア》へ駈け寄った。
執事《バトラア》と門衛《ドアマン》と売子監督《フロ
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