T点]していた。
ロンドンへの路をありとあらゆる類型の乗物がつづく。歴史的に有名な「ダアビイの帰り」だ。洗濯屋の箱車《ヴァン》の屋根に、その家族らしい肥ったおかみさんと子供たちが鈴成りに足をぶらぶら[#「ぶらぶら」に傍点]させて、笑いながら歌いながら、私達を追いこして行った。Old time coach の紳士倶楽部員と、老夫婦をのせた騾馬《らば》車の鈴、赤・黄・緑の見物自動車《シャラパンク》と最新のロウドスタア。
田舎みちの両側、ろんどんへはいってまでも大通りの歩道は、ふるい習慣によりダアビイがえりの私たちから銅貨をほうってもらおうという巷《ちまた》の子供らでいっぱいだ。
[#ここから2字下げ]
黴《かび》の生えた銅貨でいいから
一つ抛っとくれ――いっ!
Throw me out a mouldy copper !
[#ここで字下げ終わり]
と一せいに声を張り揚げるんだが、この「すろうみあうたもうでぃかぱあ」が、自動車の速力でひとつに消されて、私たちの耳を聾《ろう》するのは、灯のつきそめた裏街をいたずらに震撼する、無意味な、そして愉快に執拗な金切り声の何|哩《マイル》かにすぎな
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