》当てもの・競馬の忠告《チツゴ》売り・その他種々のごった[#「ごった」に傍点]返すなかを往きつ戻りつしている。
『わたしどもの言う馬が勝たなかったら、お金はそっくりかえしますよ――金一|志《シリン》で、この紙にきょうの勝ち馬がすっかり書いてある。へん、安いもんでさあ。』
予報《テップ》売りの口上だ。私も買ってみたが、帳面のきれはしに馬の番号が出鱈目《でたらめ》に――どうもそうとしか思われない――殴《なぐ》り書《がき》してあるだけだ。さすがに自分でも気が咎《とが》めるとみえて、一回ごとに場処をかえては、前回の買手の襲撃を避け、同時に新しい犠牲者をさがしている。
やがて――得てこういう「|大きな日《ビック・デイ》」は時の経つのが早いものだ――大観覧席の顔の壁が赤く染まり馬は汗をひっこめ、人は疲れてだんだん無口になり、そうしてエプソム丘に夕風が立つ。
The Day's end ――。
帰路につかれようとしているジョウジ五世陛下と皇后陛下とが、遠く小さく、おなじく帰路につこうとしている私たちから拝された。四頭立ての白馬と、御通路をあける警官のヘルメットに陽がちかちか[#「ちかちか」に
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