まった。
 金を賭けるには bookie へ行くのだ。何百というこの独立の私営賭馬人が、思い思いのところにずらり[#「ずらり」に傍点]と陣取って、サム・ワウだのアウサウ・フウリガンだのという名乗りの大看板をあげ、酒場の主人らしいのや東部《イースト・エンド》のごろつき[#「ごろつき」に傍点]然たるのが、汗と泡を飛ばしながら、白墨と財布を両手に握って、台の上から我鳴《がな》り立てる。
『エスカ――六対一! |巡礼の鈴《ピルグリムス・ベル》――三対一! バルビゾン! ダグラ! 日本の星! さあ来た! みんな賭けたり張ったり――え? 大至急《メイク・ヘイスト》二世へ半クラウン? 有難う。』
 などと客ともやりとりしている。各回競馬の走り出すまえに駈けてって、幾らでもいい、馬の名を言って金を出すと、引きかえに番号のついた札《ふだ》をくれるから、もしその馬が勝てば、札を示して何倍かの金を受取り、負ければ、癇癪を起して札を破いちまえばいい。ぶっきい[#「ぶっきい」に傍点]のそばには必ず高いところに信号係が立っていて、手を振り、肘を叩き、頬をつまみしてお互《たがい》に聯絡を保っている。これを tick
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