かと、こっちが怒るまでうるさくつきまとう。うっかりしていると、そこらにある物を何でも持ってゆくんだから、ナオミ・グラハム夫人は専心この一群の追払い方を引受けた末、とうとう彼らと大喧嘩におちいり、汗をかいた。
 それはそれとして、さて馬だが――。
 このエプソム競馬の特徴は、コウスが半円をなしていることで、競馬線は出発点からゆるく彎曲《カアヴ》してタテナム角《コウナ》をまがり、大観覧席の前面で決勝する。つまり楕円的な三角形をつくっている。だから、タテナム・コウナアは馬と騎手にとって運命的な急廻転地で、ほとんどここの扱い一つで勝負がきまるといわれるくらいだ。漫然とダアビイと称するものの、ほんとのいわゆるダアビイ日《デイ》はエプソムの二日目で、しかもダアビイ競馬というのは、この日の全六回のうち第三回、午後三時に行われるたった一回の謂《いわれ》にすぎない。今年はダアビイの百四十五年めにあたり、近年になく盛大だった。ダアビイの距離は一|哩《マイル》半、三歳馬、二十三頭出場。翌日は婦人日で牝馬だけ走るんだが、ダアビイは混合だ。
 ところで、番組を白眼《にら》んで賭け馬の選択にかかろう――と言ったっ
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