分の意図する活躍に対し先まわりして警告されたように感じたのかも知れない。あるいは単に、良心のほか失うべき何物を有《も》たないことを、このにやにや[#「にやにや」に傍点]によって表明した気なのだろう。どっちでもいい。
 そんなことはどっちでもいい――として、さて、ふたたび瞳をあげてエプソム草丘《ダウン》を見わたすと――。
 視線の届く限り茫漠たる芝生の起伏に、ありとあらゆる乗物と人種と高調と体臭――馬とそうして人の――と雑色と溌剌と陽光と――とにかく、自動車を構内《エンクロウジュア》へ入れようというので、警官の保護のもとに狭い入口を通ろうとしていると、耳の近くで大声がした。
 もっとも、はじめから声はいろいろしているんだが、これは、伯爵ずくめのいぎりす競馬のまんなかにめずらしくも南部あめりかの旋律を帯びていたから、とっさに私を振りかえらせるに充分だった。
 真珠王に真珠女王という、帽子から衣服ぜんたいに隙間もなく貝ぼたんを縫いつけた一組の男女が、慈善病院か何かの資金をあつめるために、バンジョウに合わせて声いっぱいに唄っている。
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河《リヴァ》のお爺さん
お爺さんの河
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