しこれが漫画なら、ここで主人公は椅子から辷《すべ》りおちて、さしずめその頭から無数の星が飛び出ていようというところ。
 大戦以前には、それでもあめりかには、腕一本の男がお金を作る機会がまだまだ転がっていたので、男たちは金儲けに夢中になった結果「疲れたる企業家」はみな晩婚で、したがって細君には子供みたいに年のちがうのが多い。だから、「男の事業」「女のおしゃれ」と社会的に劃然《かくぜん》と区別がついていて、女は男の世界とその事業には無知であっていいどころか、その方が可愛いことになっているんだが、そのため男が実社会のドルに揉まれて狂奔している間に、女はひまにまかせて本を読んだり音楽を聞いたりするものだから、いやに文学好きになったり、情緒的に高くとまったりして男が急に下らない動物に見えて、フランスの公爵やルウマニヤの詩人やロシアの青年音楽家が、「高踏的《ハイ・ブラウ》に浅黒いタイプ」として女たちにもて[#「もて」に傍点]てきたわけ。あめりかの人はこのところこれら国外からの智的侵入者に対して共同戦線を張ろうとしているかたちだ。あめりかに離婚沙汰の多いのは、この「小さなお姫さま」が「あたしのフラン
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