》さえしていたら、何も文句はないじゃないか。」
「あら、ずいぶんね! 何がそんなに『あたしのフランク』を怒らせたんでしょう?」
「君の知ったこっちゃない。事業のことだ。」
「事業のことだってあたしにはわかるわ。お話してごらんなさいな。こう見えたってあたしにだっていい智慧が浮ばないともかぎらないことよ。」
「ばかな! 事務所の苦労はおれひとりに任しておくがいい。」
「だってそうはいかないわ。夫婦ですもの――そんな水くさい――。」
「じゃ、言うがね、帳簿が合わないんだ。」
「え? 何が合わないんですって?」
「帳簿帳簿! 帳簿が合わないんだ。」
「まあ? なんて大きなお声をなさるんでしょう! それが合わないと困るの?」
「困るとも! 帳簿が合わなきゃお前、何かそこに不正が行われている証拠じゃないか。」
「あら、困るわねえ合わない帳簿なんて。高価《たか》いもの、それ?」
「何が?」
「帳簿よ。」
「帳簿はそんなに高かないさ。」
「あら! ばかねえ『うちのフランク』は。高価いもんでなかったら、そんな合わない帳簿なんか捨てちまって、新しいのを買ったらどう? わけないじゃありませんか。」
 で、も
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