族」との自動車遠乗りとによって、もう今年じゅう一日のあきもなく日程ができあがっている。頭髪の色と黒子《ほくろ》の所在は毎日変って、年齢《ねんれい》区々《くく》。趣味として買物、慈善事業、詩人画家の招待。オペラ。
 場所。
 邸宅《マンション》と呼ばれなければ承知しない彼らの家。それも交友のヴァン・アスタア夫人が「発見」してから、近所に土地家屋売買事務所ができて地代が暴騰したという郊外の一区域。夫人の言によれば「昼夜、おどろくべき日光の照っている」ところ。
 そのパアラアで夫君が疲れきって煙草をふかしていると、夫人が忍んで来て、いきなり太い首っ玉にかじりつく。
「なんだ、蜂蜜《ハーネイ》じゃないか。びっくりしたよ。」
「あら、そうお! すみませんでしたわね。けど、『あたしのフランク』はきょうどうかしてるの? すこし鬱《ふさ》いでやしないこと?」
「うん。いや、なに――何でもないんだ。『小さなお姫さま』が心配することじゃあないんだよ。」
「だって、あなたがそう屈託顔をしていらっしゃると『小さなお姫さま』だって気になるわ。」
「いいんだよ。君はただ小鳥のように飛びまわって、お金を濫費《らんぴ
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