本が多いんですもの。」
 リジイ伯母さんは口がきけなかった。彼女が自分の激情を発表しうる唯一の方法は、持っている洋傘の先で、とん[#「とん」に傍点]と床を突くことだけだった。同時に蓄音機は大声を発して、「甘い接吻《キス》ほどあとが苦いよ。」
 見るとノウマは、男のように足をひろげてどっかり[#「どっかり」に傍点]と椅子に腰を落したが、それはなにも伯母さんが観察したような近代的無作法のあらわれではなく、じつはノウマは、はじめての喫煙に眼がくらくらして来たにすぎない。
 伯母リジイがぷんぷんしてさっそく帰り支度をはじめたとき、部屋のあちこちから友達の眼がのぞいて、そして、いちように笑いを堪《こら》えていた。
「可哀そうなノウマ!」

     7

 なにもかも大きく法螺《ブラグ》を吹っかけなければ気のすまないあめりか人、つい度がすぎて、
「ロッキイという山があるでしょう。あれは私の先祖が築いたんです。」
 だまって聞いていたイギリス人が、この時にやり[#「にやり」に傍点]として、
「ははあ、そうですか。いや、たいしたもんですな。ところで、死海という海があるでしょう? あれは私の先祖が殺し
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