たんでさあ。」

     8

 お母さんがよく拵《こしら》えてくだすったあの甘《おい》しいプディング――That sweet pudding mother used to make――という言葉を夫の口から聞くことは、あめりかの新婦人が、ひとしく胸を痛めることになっている。夫の方から言えば、これがまた何よりの嫌がらせ文句だ。
 あの、新婚の夢がさめて、お互いが白っちゃけた眼で観察しだす一時的|倦怠《けんたい》の時代に、夫が妻の丹精になる晩餐《ばんさん》の席で、デザアトのプディングをまずそうに口へ運びながら、ふと述懐めいた眼を遠くへ走らせて意地悪く呟くのが、この「お母さんがよくこしらえて下すったあの甘しいプディング――あれはこうじゃなかった。もっとこう、なんとなく違っていたよ」のいいぐさにきまっている。
 これにはどのお嫁さんも口惜《くや》しがらせられると見えて、そこで始まる。
「ええ、どうせあなたのお母さんのようにはいきませんわ。けれど、どんな風にちがうんでしょう? 参考のためにおっしゃって下さいな。」
「どうって――曰く言いがたしさ。ああ、あのよくお母さんが拵えて下すったおいしい
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