者也。一切の聲色を斷絶して一神の向仰に專念す。世榮に競奔するものより見れば抑※[#二の字点、1−2−22]何等の呆癡ぞや。然れども誰か知らむ、彼等の生活には實に王者を艶羨せしめ得べきものある也。彼等は是の平和と安心と怡樂とを果して何處より得來りたる、富貴名利の外に人生の樂地を求め得たる彼等は幸なる哉。
詩人美術家が甘じて其好む所に殉したるの事例は讀者の既に熟知する所ならむ。畢竟藝術は彼等の生命也、理想也。是が爲に生死するは詩人たり美術家たる彼等の天職也。是の天職を全うせむが爲に、彼等の或者は食を路傍に乞へり、或者は其の故郷を追放せられたり、或者は帝王の怒に觸れて市に腰斬せられたり。あゝ死を以ても脅かすべからざる彼等の安心は貴き哉。富貴|前《まへ》にあり、名利|後《うしろ》にあり、其の意に反して一足を投ぜむ乎、是れ盡く彼等の物のみ。而かも彼等は斯くして得たる生に較ぶれば、死の遙に幸なることを認めし也。請ひ問はむ、世の富貴に誇り、權威に傲るものの幾人か能く這般の消息を悟了せる。
是の如きは美的生活の二三の事例也。金錢のみ人を富ますものに非ず、權勢のみ人を貴くするものに非ず、爾の胸に王國
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