見れば、人生は義務の永遠なる連鎖也、一鐶去れば一鐶來る。所謂る至善の境は一片の理想に過ぎずして、力行の道程は日月と共に終始せむ。人は旦暮の生を受けて是の間に營々たり、命《めい》や慘澹たらずとせむや。眞理とは何ぞやとは、ピラートが怪み問ひたる言葉なりき。然れども二千年の歴史に於て誰か吾人に眞理を明ししものぞ。學者は天上の星の如く、著書は海邊の砂の如し、彼等自らの信じて不朽の眞理と公言せしもの、今はた何の状ぞ。學者よ、吾人に究竟の眞理を訓へむよりは、古の哲學者の如く、大地を負へる龜を負ふものの何物なるかを究むるを寧ろ賢なりとせむ。畢竟知識は疑問の積聚のみ、一疑※[#非0213外字:「厂+菫」、ただし「菫」は第3水準1−92−16のつくりの形、読みは「わづ」、289−上−12]かに解すれば一疑新たに次ぐ。依つて以て安住の地盤を求めむは、百年坐して河清を待つに等しからむ。
美的生活は全く是れと異なれり。其の價値や既に絶對也、イントリンジック也。依る所なく、拘る所なく、渾然として理義の境を超脱す。是れ安心の宿る所、平和の居る所、生々存續の勢力を有して宇宙發達の元氣の藏せらるゝ所、人生至樂の境地
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