も好いので、……山崎氏は他の二、三の弟子たちと一緒に私宅の直ぐ前の小さな家を借り、自炊をしてやることになったが、もはや、大体出来ている人ですから、手を取って教えるというような余地もなく、ただ小刀が不完全ですから、自分の多年使った道具を同氏に見せますと、氏は大層感じたような顔をして見ていました。おそらく田舎と江戸|前《まえ》とは道具だけでも大分違うと思ったでありましょう。「なるほど、これでなくっちゃ」といって、非常に得心《とくしん》した風であった。
 それから、道具を新しく購《か》い、毎日々々それを磨《と》いでは柄をすげ、道具調べの方をひたすら熱心にやっていたようでありました。そうして道具が一切これで好《い》いとなった暁、初めて東京へ出てからの彫刻に取り掛かったものを見ると、これは一目見てもよく分るほど旧来のものとは異《ちが》ってほとんど生まれ代ったかの感がありました。これは、この人の作風が異なったというのではなく小刀が変ったのであるが、作品は、生き生きとして出来て、前の水離れのしない眠ったいような素人臭さは全然取れていました。
 こういう風であったから、山崎氏は私について長年稽古をした
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