日和《ひより》下駄でもなく、足駄《あしだ》でもない中位の下駄、……晴雨兼帯というので実に奇妙なものだが、これはなかなか経済的、一つあれば随分長い間天気にかかわらず役に立つ……ただ、この新案の下駄の歯で時々雨上がりの庭をほじくられたのには弱ったが……、それは昔の一笑話で、今日では氏もこうず[#「こうず」に傍点]になって、なかなか庭を下駄歯でほじくられるようなことはない――笑い話はさて置いて、出来る人は世話の焼けないもので、米原氏へ或る一つの手本を与えると、それを手本に模刻が出来る。薄肉とか半肉とかで、此所《ここ》はこうと一ヶ所|極《き》まり処を教えると、一を聞いて十を知るという方で、その次に同様の趣の処はちゃんと前例によって旨くやってある。それで一、二年の間にはめきめき腕が上がって私の手伝いも立派にするようになりました。これはひとえに勉強の功でありますが、またその人の素質によることでありました。
 さて、歳月流るる如く、米原氏が出雲言葉丸出しで私の玄関へ参ってから、早《はや》三年になりました。三年という約束だから、或る日、私は米原氏に向い、
「君は、もうなかなか出来る。三年の間まことによ
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