て見ると、後藤さんも至極同感で、いろいろ話の末に、同氏のいうには、「私の知人の軍人の知り人に北条の石屋で俵という人がありますが、この人は石屋に似合わず感心な人で、ざらの石屋職人と違い、石でも一つ本当に彫刻らしいものを彫って見たいといろいろ苦心しているそうですが、田舎のことで師匠もなく、困っているという話を、その軍人上がりの友達が私に何んとかならないものかと話していましたが、高村さん、あなたが、そんな気がおありなら、一つそういう人を仕込んで見たらいかがです。必ず、相当、石で物を作ることが出来るようになるかも知れませんよ」
 こういう話を後藤さんがしましたので、「それはおもしろい。その人は根が石屋だから石を扱うことは出来よう。物を彫る心を教え込めば物になりましょう。やらせて見たい」というような話になりました。この話が基になり、後藤さんを介して軍人上がりの人からその話を俵氏に通じますと、俵氏は日頃から望んでいることですから、早速、北条から東京へ出て来て、私を尋ねて参りました。無論、相当石屋の主人のことで、生計《くらし》の立っている人ですから、万事好都合でした。
 それから、石ということを頭に
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