へ行けば不動さまも仕合せ。命日々々には私の所や君の処よりも、平尾さんの処の方が御馳走《ごちそう》もあろう。ただ、我々が借りたい時は借りる条件をつけて置けば好いでしょう」
 で、後藤君は、快く不動さまを平尾氏に譲ったのでした。
 この時に私の事が平尾さんの話頭に上り、高村という人物について後藤君からも聞き、また他からも聴いたことであったと思います。これが縁で……といってまだ逢ったこともないが、後藤君を通して、平尾氏から大黒《だいこく》と蛭子《えびす》の面を彫ってくれと頼まれて、こしらえてあげたことなどがあり、それ以来、近しいともなく近しく思って私のことを心配してくれられていたものと見えます。私の方では一向|他《ひと》の気は分りませんから、知らずにいたが、その後、後藤さんを通して、私のために家を持たしてやろうと考えるまでに平尾氏の好意が進んで来たのは、平尾氏の技術家を尊重する心持も手伝ったことでありましょうが、私の考えでは後藤君がかつて私が氏に対してした仕打ちを恩義的に感じていて、私のことを平尾氏に特に推奨したような心持もあったのではないかと推察もされるのであります。
 それはとにかく、ま
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