た、平尾氏の奥さんという人もなかなかよく出来た人で、平尾氏が人のために尽くすことに関しては、良人《おっと》の善事を内で助けて行った質《たち》の人でありました。私は今日でも、平尾氏の好意は特に恩に思っている次第であります。

 それから、家持ちになれというので、平尾氏から立て代えて頂いた金銭は、技芸員のお手当の金や、いろいろのその他の収入のあった都度、二年間ばかり平尾氏の方へ運びました。二年目の終りの頃に平尾氏は、
「もう、よほど、金が来過ぎている」
ということで、
「では、おついでの時に調べて置いて下さい」
といって置きましたが、調べた結果、大分《だいぶ》余っていました。平尾氏は、
「私は商人のことだから、銀行へ預けて置くだけの利子は貰いますよ」
といって一旦利子をお取りになって勘定を済ませ、やがて日を変えて改まって利子の分五十余円を持って来て、これはお老人《としより》が何かの楽しみになさるようにいって差し上げて下さいと、老人に下されたので、年寄《としより》も非常な喜びでありました。
 ちょうど二ヶ年間に七百十五円の地所と家作代、それから百五十円の隠居建築費、合せて八百六十五円をお返し
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