しわたし》七尺以上のものがあるという。それで、直段《ねだん》は何程《いくら》かと聞くと、三円だというので、その安いのにはまた驚きました。
 直径《さしわたし》七尺有余もある栃の木といえば、その高さもおおよそ察せられましょう。枝が五間十間と張り拡《ひろ》がって、山の半腹を掩《おお》わんばかり、仰いでは空も見えないほどでありましょう。そういう大木でしかも材質が上等で彫刻の材料になろうというのが一本ただの三円とは、まるで偽《うそ》のようなことですが、それでも、宿屋の主婦に相場を聞いて見ると、少し高いという話。あの老爺《おやじ》さんは確か二円五十銭で買ったはず、五十銭|儲《もう》けるとはひどい、もっと負けさせなさいなどいっています。しかし、三円なら値ぎりようもありません。木の当りもこれで附いたので、その日は其所《そこ》に泊まり、翌朝実地に木を見ることにしました。

 この土地では栃の木は切り倒して焚《た》いております。……栃木県というのは栃の木が多いから附けられた名か、それは知りませんが、何んでもこの附近一帯の山には栃の木は非常に沢山あります。しかも喬木《きょうぼく》が多いのですが、その代り田
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