うよう》発光路に着いたのがその日の午後三時過ぎでありました。
家屋といっても家屋らしい家はなく、たった一軒飯屋兼帯の泊まり宿があって、その二階に私たちはひとまず落ち附きました。それから湯に這入《はい》り、食事をしましたが、食べるものは何もない。何かあるかというと牛があるというので、この山奥に牛肉は珍しい。それを買って来てくれといって煮てもらって箸《はし》をつけたが、とても歯も立たないので驚きました。
さて、それから、材木屋に掛け合うことになって、その男が来ました。名は確か長谷川栄次郎とかいったと覚えていますが、立派に姓名はあっても、逢って見るとまるで山猿同然のような六十四、五の爺《じい》さん……材木屋といっても、杣《そま》半分の樵夫《きこり》で、物のいいようも知らないといった塩梅《あんばい》ですから、こういうものを相手にして掛け合って、話が結局旨く運ぶかどうか、甚だ危ぶまれましたが、もう此処《ここ》まで出掛けて来ているので、話を進めるより道なく、段々右の男に当って見ると、栃の木の佳いのはいくらもある、それらは大概|崖《がけ》に生《は》えているのだが、小判形《こばんがた》で直径《さ
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