だ、道が悪くてとても大変だよといっている。そんな処はおれは御免|蒙《こうむ》りだといったり、道が遠くて骨が折れるからまあよそうなどと、とても話になりそうでなく、強いて乗ろうといえば足元を見られるに決まっているので、後藤君は軍人だけに健脚で「何も車に乗るほどのことはありません。発光路まで歩きましょう」と歩きかけますので、私は少々困ったが、まだ若い時のこと「では歩きましょう」と二人でてくてく歩きはじめました。
 山にはまだ雪が白く谿間《たにま》などには残っており、朝風は刺すように寒く、車夫のいった通り道もわるい。もうよほど歩いたから、発光路も直《じき》だろうと、道程《みちのり》を聞いて見ると、ちょうど半途《はんと》だというので、それからまた勇気を附けて歩きましたが、歩いても、歩いても発光路へは着かない。段々爪先上がりの急になって道は嶮《けわ》しく、左手に谿間があって、それが絶壁になっており、水の落ちる音がザアザアと聞える。
「どうもえらい処ですね。……しかし絵師などには描《か》けそうな処だ」
など話しながら、足は疲労《くたび》れても、四方《あたり》の風景の佳《い》いのに気も代って、漸々《よ
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