って見ようではありませんか、あなたがお出でになるなら、私もお手伝いかたがた同行しましょう、というので、私は栃の木の買い出しにその地へ参ることになりました。

 其所《そこ》は栃木県下の発光路《ほっこうじ》という処です。鹿沼《かぬま》から三、四里奥へ這入《はい》り込んだ処で、段々と爪先《つまさき》上がりになった一つの山村であります。私と後藤氏とは上野発の汽車で出掛けたが、汽車を乗り違えたため宇都宮《うつのみや》に一泊し、翌早朝鹿沼で下車し、それから発光路へ向いました。
 時は三月で、まだ余寒が酷《きび》しく、ぶるぶる震えながら鹿沼在を出かけましたが、村端《むらはず》れに人力車屋《くるまや》が四、五人|焚火《たきび》をして客待ちをしております。私たちは、彼らの前を通れば、必ず向うから声をかけて乗車をすすめることと思っていたのに、くるま屋は何ともいわず、通り過ぎても黙っていますので、少し当てがはずれ、こっちから立ち戻って言葉を掛け、発光路まで幾金《いくら》で行くねと聞きますと、発光路って何処《どこ》だいと一人の車夫はいってるのには驚きました。も一人の車夫は発光路ってこれから四、五里もある山奥
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