って御願いしたいことがありますので」との話。理由を聞くと、木彫りの手ほどきをして頂きたいとの事で、今日までいろいろ馬のことに苦心し、馬の姿を造形的に現わしたいので、日本画、洋画、蝋作りまで試みたが、どれも物にならぬので、人からは移り気だの飽きッぽいのといろいろ非難されますが、それは自分の目的を突き留める所へ参らんので、段々に変更して来たわけでありますが、今度こそ木彫りならば自分の初念がこれで達せられることが分ったので、木彫りをやりたいと切望していろいろ師匠を求めたけれども、相手になってくれる人がなく、困《こう》じ果てた結果、あなたのことを思い出して、今日《こんにち》参上したわけで、どうか一つ折り入っての御願いですが、彫刻を教えて下さい。しかし、私のような年輩でも一生懸命になれば物の形が彫れるものでありましょうか、あるいはまた到底手をつけることも出来ないものでありましょうか……と後藤氏は心の誠《まこと》を籠《こ》めてのお話。その話を聞いている私はお気の毒とも感心とも思い、
「それは後藤さん、余人なら知らぬこと、あなたには出来ますよ。あなたは馬だけ彫ろうというのですから。これは出来ます。あ
前へ 次へ
全12ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング