遠《うえん》なことでは便《たよ》りにならん、どうしても、木で彫るより仕方がないというので、東京中の仏師屋を歩き廻って木彫りの稽古をつけてくれる師匠を探して見たが、何処《どこ》でも「あなたのような年輩の方が今から彫刻を初めるといってもそれは大変、子供の時から年季を入れて稽古をしても、まず物になるには十年も掛かる……どうもこれは思い切りなすったがよかろう」などと相手になってくれませんので、後藤氏も大いに弱ったがふと私のことを思い出した。
 というのは、私が大島如雲《おおしまじょうん》氏の宅に原型の手伝いをしていた時代(この事は前に話しました)、この後藤氏が如雲氏の工場へ見学に来られて、私が其所《そこ》で木彫りをやっているのを見て、自分にも心があるから、つい、私と近づきになっていた。その事を思い出したので、西町に住まっている私をわざわざ尋ねて来られた次第であった。
 或る日、私が仕事をしていると、がちゃがちゃサアベルの音をさせて人が這入《はい》って来たから私は戸籍調べが来たのかと思って見ると、その人は顔馴染《かおなじみ》のある後藤貞行さんであった。
「突然にやって来ましたわけは、今日は立ち入
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