葉を思い出してさえも、これは打っ棄《ちゃ》って置くべきことでないと思ったのであります。氏は、「自分は、多少の余財を作って等身大の馬を製《こしら》えて招魂社にでも納めたい」というのが平素《ふだん》の願望で、一生に一度は等身大以上の大作をやりたいという希望は氏が常に私に話されていたのであります。こういう志を持っている人を蔭に使って、その出来栄《できばえ》がよかったとして、後藤氏の立場はどうなるか……こう思うと、もう私は矢《や》も楯《たて》もたまらなくなって、この事は是非とも解決しなければならないと心を決し、その晩、急に岡倉覚三先生方へ出掛けて行ったのでありました。
その頃の岡倉先生宅は根岸《ねぎし》であった。夜分の来訪、何事かと岡倉さんは思ってお出でのような面持《おももち》で私を迎えました。
「今夜は一つお願いがあって参りました」
そういう私の意気組みが平生《ふだん》と違っていたと見え、
「そうですか、何かむずかしいことですか」と氏はほほ笑《え》んでいられた。
「実は、楠公製作の件で是非御願いのことがあって出ました。これは充分|聴《き》いて頂きたい……私は今度、主任の役をお受けしたの
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