なければならない。「私は今楠公の馬をやり初めた。どうか御助力をたのみます」といえば氏は喜んで相談に乗ってくれましょう。また頼まずとも、先方から話を聞けば乗り出して来ても手伝いましょう。もしそうなるとすると、私は、自分で不安心なものを、人に手伝わせ、その助力を借りて製作するということになる。そうして、それが仮りに上手に出来たとして手柄は誰のものになるかということを考えると、後藤氏の骨折りは全く蔭のものになってしまう。どうで後藤氏の骨折りを借りなければならぬものとすれば、私の考えとして、どうも後藤氏の骨折りを殺すということは情において忍び得られぬところである……とこう私は考えたのであった。
 で、これは後藤氏をハッキリと公《おおやけ》のものにして表面へ立たせたいという考えが私の肚《はら》に決まったのでありました。これは当人の後藤氏の思惑《おもわく》は分らないが、私の良心としてはこう切に思われる。この事が単に私用的の仕事で、馬を彫るということならばとにかく、宮内省献納品で、主題は楠公、馬の大きさは前申した通りの大作、これほどのものを作るのであるから、私は、日頃から、後藤氏の口癖にもいってる言
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